実録レポート!血の伯爵夫人が暮らしたスロバキアのチェイテ城と管理人が語る”証言”

こんにちは、ドイツ・デュースブルク在住のUmineko1848です。

前回の「美しさ多彩!旅行者を魅了するスロバキアの古城3選」に引き続き、中欧スロバキアの魅力をお伝えしたいと思います。

 

さて、皆さんは吸血鬼ドラキュラをご存じでしょうか。

黒いマントに長い牙、そして何より人の生血を吸う特異なキャラクターですが、これが実在の人物を元にして描かれたのは有名な話です。

モデルは、15世紀に現ルーマニアの一部を治めていたヴラド3世。

彼は粛清や戦争の際に、自国の反逆分子や敵兵を串刺しにして処刑した君主です。

その冷徹さゆえに「串刺し公」の異名と取りました。

しかし、ドラキュラのモデルはスロバキアにも存在します。

17世紀、己の欲望のためだけに次々と少女たちを手にかけてきた女公。

その名は、バートリ・エルジェーベト

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彼女が居城としていたチェイテ城には、今も不吉な噂が絶えません。

今日は2018年夏に訪れた際に、城の管理人に取材して聞いた貴重な証言とともに、チェイテ城の謎に迫ります。

 

チェイテ城で何が起こったのか

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【原語名】
Čachtický hrad
【住所】
916 21 Čachtice

 

こちらがチェイテ城、またの名をチャフティツェ城と言います。

前者はハンガリー語、後者はスロバキア語です。

建設当時はハンガリー王国領だったこともあり、日本では前者の呼称が一般的なため、以下「チェイテ城」で統一します。

 

首都ブラチスラバから車で1時間半。

チェイテ城は、自らが背負う血生臭い歴史に相反して平穏で美しい町にあります。

私と同行者の一行は、城が建つ山の麓に車を停めました。

空気の澄んだ樹林を抜けると、すでに遺跡と化した城の姿が現れます。

 

この城は13世紀前半に、ハンガリー王のベーラ4世の指示で建設が始まり、同世紀の中頃に完成しました。

1602年、この城をハンガリー貴族のナーダシュディ・フェレンツ2世が購入します。

フェレンツ2世の妻の名はエルジェーベト。

そう、悪名高きバートリ・エルジェーベトです。

1604年に夫が死ぬと、チェイテ城は彼女の財産となります。

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エルジェーベトは、まず召使たちを繰り返し折檻するようになりました。

それに飽きると、農民や下級貴族の娘たちを次々と誘拐、拷問した上で殺害。

被害者の数は300人だったとも、650人だったと言われています。

その多くはチェイテ城でなぶり殺され、まさにこの地に埋められたようです。

この写真のどこかに、ひょっとするとまだ見つかっていない遺体があるかもしれません。

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さて、なぜ彼女は女性たちをターゲットにしたのでしょうか。

それは彼女の「美に対する異常な執着」に他なりません。

エルジェーベトは、うら若き女性から搾り取った生血で風呂を満たし浸かったとのことです。

目的は、自分の美と若さを追及するため。

血の渇きに飢えた彼女の姿が、のちに吸血鬼のイメージに取り入れられることになります。

結局、エルジェーベトは命からがら逃げ出した者によって内情を暴露、告発されました。

城内の扉も窓も塗り塞がれた暗黒の監獄にて3年半幽閉されたのち、この地で絶命します。

54年の人生でした。

 

管理人との出会い

私たちが城内を一周し、来た道を戻ろうとすると、ある男性に声をかけられました。

珍しくアジア人が来訪したからか、興味を持ったのかもしれません。

三匹の大型犬を引き連れ、たくましい肉体を備えた彼は、チケット販売所の隣に建てられたギャラリーへと招き入れてくれました。

中は城の歴史を伝える展示物が陳列してあります。

もちろん、エルジェーベトのことも。

彼は城の管理人。正確には宿直です。

ここでは仮にA氏としておきましょう。

見学時間が終わると、城門の鍵を下し、近くの小屋に寝泊りしています。

信じられません。

チェイテ城は、いわば究極の「事故物件」。

叫んでも誰の耳にも届かないこの深い山間に、ほぼ毎晩しかも一人で過ごしているわけです。

何もないわけがありません。

A氏は英語が話せませんし、私はスロバキア語がわかりませんが、幸いにも同行者がロシア語とウクライナ語が理解できるため、お互いの共通語彙を頼りに通訳してもらいながら話を伺うことにしました。

A氏もよほど人恋しかったのでしょう。

彼はここで耳にしたこと、目にしたもの、そして体験したことを滔々と語ってくれました。

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城で起こる不可思議な出来事

A氏は隣村に妻と一緒に暮らしてます。以前はドイツで料理人として働いていました。

そんな彼はこの仕事を初めてわずか3カ月。

聞くところによると、前任者はこの仕事が長続きせず、その前の人も早々にこの城を去ってしまったそうです。

彼が春にこの仕事に就いてすぐ、不可解な現象が起こり始めます。

日没後、城門に設置されているセキュリティアラームが何の前触れもなく鳴り出しました。

A氏は侵入者がいると思い、城門まで駆けつけるも、そこには誰もいません。

再びアラームが鳴る。駆けつける。誰もいない。

そんなことが数日続いたそうです。

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そんなある夜、A氏が小屋の中で犬たちと体を休めていると、どこからかともなく、普段聞き慣れない「声」を耳にしたそうです。

女がすぐ近くですすり泣いている声でした。

恐怖に慄きながらふと窓の外に目をやると、そこには闇に蠢く人影。

食い入るように目を凝らします。

すると闇夜に浮かんできたのは、黒い装束を身にまとった女。

何かに絶望したかのように、すすり泣きながら城を当てもなく歩いているのでした。

屈強なA氏でありますが、得体のしれない物体を前に、ただ布団をかぶって日が昇るのを震えながら待つしかなかったそうです。

もしこれがいわゆる「幽魂」なるものだったとしても、果たして犠牲になった乙女の一人なのか、あるいは獄死したエルジェーベト本人だったかは、誰も知る由がありません。

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まとめ

実は他にもA氏は二つほど、ここで体験した恐怖の出来事を私たちに語ってくれましたが、紙幅の関係上、ここまでとします。

ご要望があれば、また記事を書きたいとと思います。

最後に、チェイテ城の見学方法を記しておきました。

もしご自身がスロバキア語がご堪能で、A氏から直にお話を聞きたい場合は、実際に城に行かれてはいかがでしょうか。

ただ、その日まで彼が無事でいればの話ですが。

 

【見学方法】

入場料は大人2,50€、学生等1,50€、 6-15歳1€。駐車場料金は1€。荒天時不可。ツアーあり。自由見学の場合は、英語のハンドアウトがもらえる。見学時間は月によって異なるため、事前にhttps://cachtickyhrad.eu/en/を確認のこと。